嘔吐
Vomit

何やら蛸の脚のような生き物の体が空間を蠢き、黒くてまるい頭部の耳の穴から、黒いどろどろしたものが吐き出されている。口からは青いギザギザの歯と緑色の舌が伸びる。リアルに描かれた蝿の行列。文字にするとおぞましく聞こえるが、グレーの地に青、赤、紫、緑、黄の原色でくっきりと描かれた本作品は、むしろからっとした明快さと激しい活力をほとばしらせる。
京都の行動美術で学んだ吉仲が、独自の作風をつかんだのは、上京後の1955年、当時の前衛画家たちの渦の中に飛び込んでからだった。瀧口修造、岡本太郎らに認められ、良き仲間を得た。鉄骨と機械の構成のような画面に、もっと捉えどころのない不定形の生物のエネルギーを加えたところで、《嘔吐》が成立した。これは吉仲流の生命賛歌だろう。