ある街の片隅、忘れられた祠
Obscure Nook of One Town - Forgotten Shrine

若い時分にフランスやイタリアで過ごした経験が、保田の作品に大きな影響を及ぼした。中世の寺院や古代の遺跡を繰り返し訪ね、南ヨーロッパの山の上に位置する小さな町々を放浪した。古典古代の芸術空間の体験とともに、そこへ続く町の階段の小道が印象に残ったという。
帰国後の1970年代、本作品のような階段を用いた彫刻作品が多く制作された。ステンレスの冷たい階段に翻案されてはいるが、そこには、彫刻家の脳裏にある南欧の古都のイメージが原風景として現れる。それは、感傷的な気分を伴わない、純化された記憶だ。
保田の空間造形は、人々の営みへの愛着から出発しながら、それを抽象的で無機質な空間へと変質させる。マリノ・マリーニの具象彫刻を「硬質な抽象性」と評した保田の言葉は、彼自身の作品にこそふさわしいだろう。