かつら

The Wig

田中功起

TANAKA, Koki

2003(平成15)年
DVD



天空で飄々と回り続ける《かつら》は、ほぼ同じ場所に留まり続けることによって、ある種の絵画的性質を持っている。すなわち、場面が展開しない画面を見つめさせる点において絵画ととても近い位置にありながら、絵画とは違う側面を映し出す。

また、《かつら》自体が立体物であることによって彫刻的性質も持っている。一般に彫刻は見る者が作品の周囲を動くことによって、その全体像を捉えさせる。しかし、《かつら》は見られる対象そのものが動いてくれることによって、私たちは動かずにその全体を見渡すことができる。

さらに、物語がまったく進展しない点において《かつら》という映像作品は、私たちが慣れ親しんだ映画とも違う趣を持っている。

これらの点において、《かつら》は絵画とも彫刻とも映画とも異なる独自性を持つと同時に、普段は気づかない絵画や彫刻、映画それぞれの特質をも浮かびあがらせている。